株主総会の決議要件

株主総会には(ア)普通決議、(イ)役員選出の決議、(ウ)特別決議、(エ)特殊決議Ⅰ、(オ)特殊決議Ⅱ、又、株主総会の決議ではないが(カ)株主全員の同意を要するものがある。株主の利害に重要な影響を及ぼすものほど決議要件が厳しくなる。憲法の改正の決議要件が厳しいのと同様である。尚、議決権は1株1票なので、沢山株を持っているものが意思を決定できる。

(ア 普通決議)

原則として議決権の過半数の株主が出席し、その出席株主の議決権の過半数の賛成でなされる。ただし、定款でこれと異なるように定めることができる。だから、例えば「議決権の5分の1が出席し、その10分の6の賛成でなされる」と定めてもいいし、定足数を排除して「定足数は不要で、出席株主の議決権の過半数の賛成とする」としてもよい。法律に特別に定めがない場合は普通決議でなされる(309条①)。

(イ 役員選出の決議)

取締役、監査役、会計参与の選任、及び、取締役、会計参与の解任(監査役は含まず)は原則として議決権の過半数の株主が出席し、その出席株主の議決権の過半数の賛成でなされる。ただし議決権の3分の1以上でその過半数以上のという条件の範囲内で定款で変更可能である(341条)。だから定款で「議決権の5分の2以上が出席し、その4分の3以上の賛成で可決する」というふうに変更可能である。普通決議との違いは定款での変更の範囲である。

(ウ 特別決議)

原則として議決権の過半数の株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成で可決される。 ただし、定款で出席議決権は3分の1以上でその3分の2以上のという条件の範囲内で定款で変更可能である(309条②)。例えば、「当会社の特別決議は議決権の全員が出席しその4分の3以上の賛成で可決される」と定款で変更してもよい。特別決議が必要な決議は多い。列挙すると
①譲渡制限株式の譲渡の承認請求があった場合に、会社が承認しない場合に会社がその株式を買い取ること。または、指定買取人が買い取ること(非取締役会設置会社のみ)(309条②1)。
②特定の株主から自己株式を取得する決議。この特定というのは、全株主に株式を会社に買い取らせる権利を与えない場合をいう(309条②2、156条①、160条①)。
③全部取得条項付種類株式の取得の決議(309条②3、171条①1)。
譲渡制限株式の相続があったとき、相続人の株式を強制的に取得できるという定款の定めがあるときに、それを買い取ることを決定する決議。このとき買い取り価格まで決議する必要はない(309条②3、174条、175条①1、177条)。
④株式の併合をする決議。株式の併合とは3株を1株にするというように一種のデノミのことである(309条②4)。180条②3によると株式の併合はある種類の株式のみ併合することも可能なようである。
⑤非公開会社における株式発行の決議、及びその決定を取締役又は取締役会に委任しようとするときは、その委任の決議、さらには、その発行の決議にしたがって広く株の募集をした場合に、非取締役会設置会社の場合に株式を買うと申込のあった人にたいして、誰に何株割り当てるかという決議。まとめると、取締役会のない非公開会社では、株式の発行に関する決定はすべて株主総会の特別決議が必要ということである。
⑥新株予約権の発行手続きに置ける⑤のバージョンであり、ほぼ同じである。以下に記述する。非公開会社における新株発行の決議、及びその決定を取締役又は取締役会に委任しようとするときは、その委任の決議、さらには、その発行の決議にしたがって広く新株予約権を募集した場合に、非取締役会設置会社の場合に新株予約権を買うと申込のあった人にたいして、誰に何株割り当てるかという決議。
⑦累積投票によって選ばれた取締役の解任の決議、及び監査役の解任の決議。
⑧役員らが任務を怠った場合には株主に損害賠償をしなければなりませんが、その職務を行うにつき善意で軽過失(この職務を行うにつき善意で軽過失とはいったいどういう意味なのかは全く意味不明ですが。おそらく、任務を怠って損害が発生しても賠償させるほどではないというときのための言葉だと思います)な場合、その役員らの責任の一部を免除する決議。
⑨資本金の減少の決議、ただし、定時株主総会で欠損の額を補填する場合は特別決議の必要はない。ここでの欠損の額とは資本金と準備金の和から純資産を引いた額のことである(規則68条)。
⑩金銭以外を配当するときの配当の決議
⑪定款の変更、事業の譲渡等、解散の決議
⑫組織変更、合併、分割、株式交換、株式移転をする決議

(エ 特殊決議Ⅰ)

定足数は存在せず、ただ株主の半数以上の賛成かつ、議決権の3分の2以上の賛成で可決される。定款で半数以上というのと3分の2以上というのはそれ以上に変更可能である(309条③)。特別決議Ⅰが必要なのは
①株式全部に譲渡制限をつけるとき(309条③1)。つまり公開会社が非公開会社になるときである。株式を今後自由に売買できなくなるというのは株主にとって重大なことなので、多くの人の賛成が必要という趣旨なのだろう。
②合併により消滅する会社、又は株式交換、株式移転により子会社となる会社が公開会社であり、対価として受け取る株式に譲渡制限株式が含まれている場合の合併又は、株式交換の承認決議(309条③2、3、783条①、804条①)。趣旨は上記①と同じで、今まで売買自由であった株式がそうでなくなるからだと思う。

(オ 特殊決議Ⅱ)

定足数は存在せず、ただ株主の半数以上の賛成かつ、議決権の4分の3以上の賛成で可決される。定款で半数以上というのと4分の3以上というのはそれ以上に変更可能である(309条④)。特別決議Ⅱが必要なのは非公開会社において株主ごとに異なる取り扱いをするときである。もう少し詳しくいうと
非公開会社では株主ごとに、
(ア)剰余金の配当
(イ)残余財産の分配
(ウ)株主総会での議決権
について異なる取り扱いが可能である(105条①、109条②)。これは、種類株式とは違い、株主個人に備わった権利である。種類株式の場合は株主個人ではなく、その持っている株式によって、権利が異なるということである。だから例えば山田さんは剰余金の配当はないが、議決権は1株につき2票あるとか、佐藤さんは剰余金は他の人の2倍もらえるとかが 決めてよいということである。この株主ごとに異なる取り扱いを廃止するときは特殊決議Ⅱは必要ない。このときは単に定款の変更ということで、特別決議でよい。付け加えると、株主ごとに異なる取り扱いをするには定款で定めなければ効力を有しない。

(カ 株主全員の同意)

株主全員の同意を要するのは
①株式全部に対して、一定の事由が生じたら会社が株式を取得するという条件をつけるとき(110条)
②役員等に対する損害賠償の責任の免除をするとき(424条)
③持ち分会社に組織変更するとき(776条①)
である。他にもあるかもしれないが、今は思い浮かばない。

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