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行政書士の事実証明(家系図作成)の独占業務の判例への意見

2010年12月20日、家系図の作成の商売をしていた罪により1審、2審で有罪だった人の無罪が最高裁で確定した(判決文)。一体、家系図を作成して商売するのが一体どこがいけないのかと一般の人は思うかもしれない。普通犯罪とは人間が生まれ成長していくうちに育まれていく道徳観や正義感に背く行為というのが通常の感覚だろう。殺人や盗みはその典型だ。家系図作成は我々の道徳観には全く反しない。家系図作成が犯罪になるという根拠は行政書士法にある。行政書士法19条1号と1条の2では事実証明の書類は行政書士しか作ることはできないとある。そして行政書士法21条2号には、これに違反した者は1年以下の懲役または百万円以下の罰金とある。

事実証明に関する書類が行政書士にしか作れず、これに違反したら懲役刑とは、これほどめちゃくちゃな法律はない。これでは例えば調査をする会社はどうなのだろうか。例えば世論調査をしているのは民間会社であり、世論という事実を証明しているではないか。交通量の調査会社は道路を通る車の数を数え、証明しているではないか。私も以前測量会社に勤めていたが、行政書士でもないのに、面積や距離を測って役所にその書類を提出していた。こんなものは言えばきりがない。

私は行政書士なのでこの法律のことは知っていた。だがこんなのは、だれも守る必要のない条文だと思っていた。だが、この被告は1審、2審で執行猶予がついているとはいえ懲役刑になっている。これには驚いた。この被告を告発したのは北海道行政書士会らしいが、検事の方も仕方がなく起訴したのであろう。ばかばかしいと思いながら。そして1審、2審の裁判官も確かに条文では事実証明に関する書類を作成したら懲役刑又は罰金刑とあり、こんなことで罰金刑にするわけにはいかないからしょうがなく執行猶予付きの懲役刑にしたのであろう。その点最高裁はおかしな条文に真っ向から反抗し、まともな判決をしたと思う。この判例によると家系図作成は行政書士法上の事実証明には当たらないらしい。どうみても事実証明にはあたるが、この条文自体がおかしいので、法律の趣旨をのっとってこの条文のおかしさを指摘したのであろう。国会も早急にこの行政書士法を改正してほしいものだ。

一般の方は、めちゃくちゃな法律があるものだと思うだろうが、弁護士法、司法書士法、土地家屋調査士法、税理士法、社会保険労務士法などには、これに類似した職業保護法的なものがいくらでもある。ほんらいならこういう独占業務は既得権益の保護であり現在の自由経済思想にあわないものである。又、憲法で保障する職業の自由に反するものでもある。というわけで、資格者に対しての業務独占というのは減っていくかもしれない。ただ私は既得権の保護というのは社会の安定のために必要なものだと思っている。だから、私はこういう士業団体が国民の利益のために業務独占が必要だなどと詭弁を弄せず、自分たちの職や生活の安定のために業務独占させてくれと正直にいえば、程度にもよるが、ある程度認めてもいいとは思う。人間生活の安定を求めているものだ。競争は楽しみ程度にとどめるべきだ。

2010年12月21日

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