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【カタロニア賛歌、ジョージオーウェル著、都筑忠七訳、岩波文庫】の思いで

 この本を教えてくれたのは、このシリーズで何度も登場しているW君である。当時私は札幌に住んでおり、W君と同じ下宿だった。大学3年目か4年目、1991年か1992年のことである。

 この本をW君に特に勧められたという覚えはない。W君の本棚から勝手に持ち出しで読んだのかもしれない。ただ、私はこの本の最初の部分しか読んでない。ただ非常な印象を受けた。この本はジョージオーウェルがスペインの内戦に参加した時のルポタージュである。そこでのスペイン人兵士の気前良さが書かれている。ジョージオーウェルが、スペイン人の兵士に、たばこを一本くれというと、「ひと箱もってけ」とかいわれたそうだ。そんなような気前のよさが書いてあり、ずいぶん印象に残っている。スペイン人全般が気前がいいのか、この反ファシストの人民戦線に加わった人たちが気前がいいのか私にはわからない。私は気前の良い人間にあこがれる。が私自身は決して気前の良い人間ではない。その点W君は全く持って気前がよかった。

 W君は大学卒業後にいわゆる一流会社に就職した。最初の勤務地が札幌だった。同時に私も卒業した。私は就職しなかった。夏目漱石流に言えば高等遊民をやっていたのである。そして引き続き札幌にとどまった。私は肉体労働と家庭教師をしていた。苦しくもあり充実した日々でもあった。思い返せばいい時期だったと思う。機会があればこの時期のことを書いてみたい。で、私にお金がないとW君も思ったのだろう。W君は、よくおごってくれた。1年間で10万円ぐらいはおごってくれたと思う。この恩は今も返していない。W君は阪神大震災のときもずいぶん義援金を寄付していた。「こんなに給料もらっていいのかなあ」とも言っていた。全く立派なやつだと思ったものだ。W君は1年で転勤となり札幌を去った。

 で、また、このカタロニア賛歌の話に戻るが、私が大学4年目の夏、ラグビー部の合宿に、この本をW君から借りて持って行った。で読みもしないのだが、かなりボロボロにして返した。私は何のわびる様子もなく返した。W君は寛大な男である。私が少しでも悪いなあという態度を示せばよかったのだが、尊大に返したので、おそらく不愉快だっただろう。私は自分を正当化していたのだ。で、これには話の続きがあって、その後私は、このカタロニア賛歌の新品を買った。それを見たW君はさすがに不愉快そうだった。なにせ自分の本はボロボロにされ、そのボロボロにした当本人が新品を買っているのだから。W君は決して大声で怒鳴ったりするような人間ではない。その時も、ちょっとあきれたような顔をしただけだったと思う。その時は、またまた私は尊大な態度をとった。だが実は悪いことをしたと後々後悔した。今40歳になるが、まだそのことを覚えているくらいだから。今私の手元にはカタロニア賛歌がある。大学生のときに買ったのはその後捨てた。数年前にW君にプレゼントしようと思って買ったのである。だが、未だ渡していない。W君もこのことを覚えているかわからない。

 私はカタロニア賛歌は最初の部分しか読まなかったが、これでジョージオーウェルのファンになった。岩波文庫からでている「ジョージオーウェル評論集」はよく読んだ。皆さんが指摘されているように、この人は全く自分の気持ちに率直なのである。私は率直な人間が好きだ。ジョージオーウェルの【動物農場】も読んだが全く持って傑作だった。

書き終わって見て、ただ、本をボロボロにして返したというつまらない話になってしまったが、私には、心に残っていることなのである。この稿は若かった自分への反省とW君へのお詫びのつもりで書いた。

2010年9月5日

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