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イザベラ・バードの朝鮮紀行を読んで

久しぶりに面白い本を読んだ。著者は日清戦争のころ朝鮮に渡り、その後数年間、中国と日本を行き来しながらも朝鮮を旅した英国人女性である。朝鮮王や王妃にも何度も面会している。 この著者によると、朝鮮に商業は行商以外はゼロに等しく、農業は貧しいという。日清戦争のころ朝鮮は本当に貧しい国だったようだ。ところで、日本に文明をもたらしたのは5世紀6世紀、7世紀ころの渡来人である。つまり朝鮮人である。その朝鮮が明治の頃には日本と比べ物にならないほどの後進国だったということである。つまり1500年前から、全く進歩がないということなのである。これは本当に驚くべきことである。これが例えば朝鮮だけにしか文明がないならわかる。というのはエジプトだって、3000年くらい何の進歩もなかっただろうしメソポタミアだってそうだろう。しかし周りに中国や日本というそれなりに文明を持った国がありながら全く進歩がないというのは本当に驚きである。

さて次に驚いたのが官僚、役人、貴族の腐敗ぶりである。著者によると、ある人が金をため込んでいるといううわさがたつと、役人が来て、借金を申し込むらしい。そして断れば、投獄されるらしい。そしてお金は返ってこないらしい。だから庶民はまったく働く意欲がなく貯蓄というものをしないらしい。著者に言わせるとそれが朝鮮の後進性の理由のようだ。ロシアに移民した朝鮮人はそういう搾取はないので勤勉に働き、朝鮮貴族よりも暮らし向きがいいらしい。著者はロシアが朝鮮を統治すれば、朝鮮人民は幸せになると述べている。しかし実際に著者の言う程の官僚の腐敗があったのだろうか。官僚にも道徳感というものがあるだろうし、庶民から尊敬されたいという気持ちもある。実際、朝鮮でも立派な官僚をたたえる記念碑などもあるらしい。著者の記述によると少しでも財産を蓄えるとまず間違いなく官僚から上記のような搾取を受けるらしい。書き方が大げさなのではと思ってしまう。

もう一つ不思議だったのだが朝鮮にはソウルを始め人口数万の街がいくつもあるようだ。商業も全くない国で、街の住民は一体何をやっているのであろう。おそらく貴族、役人とその従者なのだろうが、そんなにいっばいいたのだろうか。ソウルでも20万と書いてあったような気がするが。日本でも商業がない時代の奈良、平安時代にはそんな街などなかったであろう。せいぜい奈良や京都に数万いただけだと思うが。不思議だ。

それから朝鮮の街、村、人、は非常に不潔だったようだ。街には汚物があふれて、家にはゴキブリやハエの大群がいて、著者は眠れなかったようだ。

朝鮮人は貴族も庶民も非常に大食いだったらしい。人類は文明が進むに従って飽食になってきたというように世間では考えているようだ。私はそんなことはなく、古代人も原始人も腹いっぱい食べていたと思う。この後進国の当時の朝鮮人も食べきれないくらい食べていたようだ。食料などいくらでもあったのである。

この本は政治にも多く触れている。著者自身、王や王妃に何回も会っているのである。そして日本についても多く言及している。著者によると日本人の朝鮮人に態度は非常に悪いということらしい。おそらく横柄だったということであろう。それから日本の政治家は朝鮮を腐敗から救うべく誠実に改革に努力したらしい。朝鮮人はこの当時から日本人を激しく嫌っていたようだ。朝鮮人が日本を嫌っていた理由は、日本人の横柄な態度であろう。戦前の旧日本軍や警官というのは威張り散らしていて、日本人からも嫌われていたというから、大体想像がつく。 そしておそらく商業に来た日本人も威張っていたのであろう。だから朝鮮人の怒りを買うのは無理も無いことなのである。

それから一時期、王はある朝鮮人一派に幽閉されていたが、ロシア公使館に脱出し、そこで王権を取り戻し、いろいろ命令を出してたようだ。王はロシア軍に守られており、朝鮮軍はロシア人将校から訓練されていたようだ。ロシアは朝鮮で指導的立場に立てる機会がいくらでもありながら、そんなものに立ちたくない、朝鮮とは関わりあいなど持ちたくないという態度だったらしい。これを見ても、少なくともこの当時は、ロシアが朝鮮を領土にするなんて気持ちがないのがよく分かる。。日本が勝手に朝鮮がロシア領になると思って怖がっていただけなのだろう。

その他、日本人も大いに関与した王妃謀殺事件やら、朝鮮での仏教の扱いやら、女性の地位やら、面白い。何と言ってもその当時に書かれたのがいいところだよ。値段は1700円くらいと文庫にしては高いけどそれ以上の価値が有るよ。お勧めです。

この本を読んだあと、この当時のことの本などをぱらぱら読んでみた。その上での感想なのだが、この日清戦争当時は日本は朝鮮を領有する気はなかった。朝鮮軍を日本が訓練したりしているところを見てもそういう気はなかったのだろう。領有する気なら、立派な軍隊ができてしまったら困るだろう。もちろんその当時の政権がそうなのであって、日本にもいろいろな政治家がいるから領有したいと考えていた人もいただろう。そしてロシアのほうは朝鮮国王が頼るものだからしょうがなく、朝鮮軍を訓練したり、政治のアドバイザーを派遣していたというところなのだろう。そしてその後日露戦争のころになっても朝鮮など領有したくないという気だったと思う。もちろんこれもロシア皇帝や、ロシアの大部分の政治家がって意味で、一部には領土拡大主義者もいたかもしれない。朝鮮南部に冬も凍らない港を貸して欲しいくらいはあったかもしれない。それから日清戦争なのだが、子供の頃から日清戦争の原因というのは全くわからなかった。日本がモンゴルと戦ったのは一方的にモンゴルが攻めてきたから。大昔、日本が朝鮮と戦ったのは、豊臣秀吉が朝鮮や明を従えたくて日本が一方的に攻めたから。すごくわかりやすい。でも日清戦争にはそんなものはない。が、どうやら朝鮮の政争と関係があるようだ。朝鮮は政争の時、清や日本を利用していたようだ。そのうち日本は清が主導権を握るのを不快に思い出した。で、いつかやり返してやろうと思っていた。そこで朝鮮に内乱があったので、待ってましたとばかりに大軍を送って、清に因縁をつけてやってけて、その上賠償金もとって、遼東半島と台湾もとってしまった。いや~本当ひどい話だよ。やりすぎだって。アメリカの比じゃない酷さだと思ったよ。そりゃ~、清としてはロシアのおかげで遼東半島がもどってきたんだから、お礼に旅順や大連くらい貸してあげるよと言う気になると思うよ。

しかし、思うのだが、朝鮮政治が腐敗していると言ってもそれは程度の問題だよ。現代日本だって腐敗しているといえば腐敗しているんだ。天下りなどという明らかにおかしい制度をやめない役人。天下り先を探すのがトップの仕事だと思っているとかいう話だからな。それに役所の仕事なんて不要なものがいっぱいあるのに、慣例に従いやめようとしない。誰も得しない天皇制というまったく無意味な制度。天皇陛下だって天皇なんてやりたくないよ。上げてけばきりがない。これを何処か遠い星から来た、知性道徳も優れた人が見たら腐敗していると思うだろう。そして改革しなきゃと言って偉そうに(当時の日本がしたように)改革を押し付ければ強制される側は(当時の朝鮮人のように)腹も立つだろうと思ったよ。

2016年1月17日

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