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【忘れられた日本人、宮本常一著、岩波文庫】の思いで

 この本を教えてくれたのは当時同じ下宿に住んでいたW君である。おそらく、大学の4年目だと思う。がはっきり覚えていない。W君と同じ下宿にいたのは大学3年目と4年目のはずだから、おそらくそうなんだろう。W君は当時いろいろな本を読んでいて、すごかったのである。もし、この思いでシリーズを書き続けるなら、W君は今後たびたび登場すると思う。彼なくして私の20代を語るのは難しいのだ。で、そのW君が同じ部屋にいるときに「これは面白いよ」といってこの本の「土佐源治」のことを教えてくれたのだ。

 私は子供のころから歴史が好きだった。大学に入るころになると、だんだん昔の人はどんなふうに生活し、どんなことを考えていたのだろうと思うようになった。今は捨ててしまって持っていないのだが、河出書房から出ていた、「生活の歴史」の文庫シリーズを大学生のころ何冊か買ったりしていた。というわけで、この【忘れられた日本人】というのは、まさに私が求めていたものだったのである。

 で、話は戻るのだが、その教えてもらった「土佐源治」ぐらいはその時によんだと思うが私が宮本常一のファンになったのは少し後になってからだと思う。というのは手元にあるこの本の後ろを見ると【1996年 5月7日第29刷】となっているのである。W君に最初に教えてもらったのが大学4年目だとすると1992年である。つまり、最初に教えてもらってから、4年ぐらいしてからこの本を買ったのである。そして、だんだん宮本常一のファンになっていたのだと思う。私は20代後半のころは、尊敬する人に宮本常一をあげていたし、こんな人生を送ってみたいとも思っていた。20代後半に宮本常一の著作は結構読んだ。中でも自伝である「民俗学の旅」というのがおもしろかった。「調査の旅にでるときは気が重かった」というようなことが書いてあったことが印象にのこっている。やはり、何の肩書きもない人間が知らない人に声をかけ、取材をし、泊めてもらうというのはそれなりに大変だったのだろう。邪険に扱われることもしばしばあったんじゃないかなあ。 

 で、【忘れられた日本人】の話に戻すが、この本は私が子供のころ持っていた、昔の人は我々現代の人とは違うという偏見を取り去るのに大きな助けになったと思う。もちろん、この本だけでなくいろんな本をよんだり聞いたり、考えたりして偏見はとれていったのだろうが。昔の人も今の人と同様な生き物だということ、欲をもち、他人に迷惑をかけ、人を助けたと思い、人によく思われたい、そんな今の人間と変わらないということを教えてくれたと思う。この本には農民、漁民いわゆる庶民への愛があふれている。詳細な分析があるわけでもない、学術書では決してない。どちらかというとルポタージュのような感じだ。でも、単にルポかというとちょっと違う気がする。今、久々にページをめくってみると本当にいろいろな記事が寄せ集められて、タイトルをどうしようかなあということで、忘れられた日本人にしたんだと思う。値段は当時で税率3%込で570円。

しかし、思いでシリーズが最初3冊とも岩波文庫である。以下に私が岩波文庫にお世話になったかが改めてわかった。有難うございました。

2010年8月25日

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