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【質点の力学、質点系・剛体の力学、原島鮮著、裳華房】の思いで

 この本は裳華房の基礎物理学選書の第一巻(質点の力学)と第三巻(質点系・剛体の力学)である。この2冊も私に素晴らしい時間を与えてくれた。1993年、大学5年目23歳になる夏のことである。当時私は札幌に住んでいた。人間年をとると感動したり喜んだりしなくなるものである。私も20代の頃は、本から多くの喜びや素晴らしい時間を与えてもらった。そういうのも、どうだろう28歳ぐらいが最後ではないだろうか。今でも素晴らしい本を読んだりするが飛び跳ねたいような気分にはならない。私の友人のA君がうまいこといっていた。「20代の前半は広大な知識の世界にあこがれて本を読んだが、30代の今は、まあ、こんなものかと静観している。」私もそうだった。知識の世界にあこがれ素晴らしい真理を教えられることを望んでいた。

 私がなぜこの本を読んだかを述べてみたい。私は大学入学のときは物理学科か地球物理学科にいきたかった。高校生のときに物理に感動していたからだ。私の入学した大学は入学時には学科に分かれていなかった。それで、私は理Ⅰ系というところに入学した。入学試験では物理必須のところだった。解放の手びきの思いで国富論の思いででも書いたが、私は大学の授業は全く聞かなかった。そういうことで成績も悪く1年生を2回やった。私の通った大学では2年生の秋に学科を選ぶことになっている。それは成績順だった。その頃はもう物理学への興味も失っていたが物理学科にいきたかった。その当時物理学科というのは結構人気があった。少し前にアインシュタインロマンというのがNHKで放映されていたのも影響あったのかもしれない。学科を選ぶにあったて学生を上位のグループと下位のグループに分けられた。まず上位のグループが希望学科を選ぶのである。物理学科はその上位のグループですでに定員を満たしてしまった。我々下位のグループの人間はまだ定員に達していない残りの学科から選ばなければならなっかた。古いことなのではっきり覚えていないが私は第一希望に農業経済学科、第二希望に土木学科を選んだ。希望は第20希望まで書かなければいけなっかった。私の成績はおよそ600人中下から10番には入っていたと思うので、おそらく事務の人に第20希望まで書くように指導されたのだと思う。こんな成績だから希望しても、どうせ残ったところにしか入れてもらえない。私は書くのがばかばかしくて第3希望以降は適当に埋めた。数学科にいこうかと頭をよぎったが、わたしのラグビー部の先輩で数学科で4年間在籍して単位をとれず放校になった人がいたので、それを恐れて数学科は書かなかった。そういうわけで、私は第1希望も第2希望の学科にも入れず書いたかどうかもわからない、農学部のとある学科し進学することになったのである。

 私はラグビー部に在籍していたが、そのラグビー部も4年目の秋に引退した。留年していたので後1年大学生活が残っていた。私はいろいろ本を読むことにした。というより、自然にいろいろ本を読みだした。歴史の本とか読んだなあ。デカルトの方法序説もこのころ読んだ。私は前から興味があった物理も勉強してみることにした。私は安易に考えていた。力学に1カ月、電磁気学に1カ月、量子力学に1カ月、統計力学に1カ月、相対性理論に1カ月.....というような感じで1カ月もあれば1つの科目をマスターできると思っていた。高校の物理が簡単だったからだ。これは大きな間違いだった。私はファインマン物理学の力学を買ってきて寝転がって読んだ。別に物理学を極めると言うつもりもなく、世の中の現象を理解するために読んだ。決して紙を使って計算することなどなかった。面白いことは面白かった。しかしとても力学がわかったとはいえるようなものではなかった。数学の本も買った。志賀浩二さんが書いた数学30講シリーズだ。これも寝転がって読んだ。これも結構面白かった。そのあと物理入門コースの力学や解析力学もパラパラと読んだ。この物理入門コースの力学については、あまり印象に残ってないが、解析力学のほうは論理がめちゃくちゃだと思った。この頃になると1カ月で1つの科目をマスタ-するのは無理だなあとわかってきた。勉強してても、そう面白いとも思わなかったが、物理や世の中の現象、例えば電磁波とはなにか、をわかりたいという情熱が物理の勉強を続けさせた。そんなときに出会ったのが、【質点の力学】、【質点系・剛体の力学】だったのである。大学5年目、23歳になろうとする夏のことである。この年は私にとってつらい年だった。全くつまることもなく、2冊読み終わった。札幌の涼しい夏、私は下宿でちゃぶ台のような小さな机を広げて読んだ。美幌峠の思いで②で登場するK君から借りたビージーズを聞きながら。K君はその頃わたしの住んでいた下宿に引っ越してきていたのである。この【質点の力学】、【質点系・剛体の力学】は私に素晴らしい時間を与えてくれたのである。もし、いきなりこの本を読んでも、ああはあっさり読み進めることはできなかっただろう。それまでに何冊か読んで、いろいろわからないことがあり、この本を一気に読む下地ができていたのだ。こんはどんな学問でもいえることだ。いろんな本を時間をあけながら読むことによってわかるようになるのである。

 この本は記述はきわめて丁寧であった。原島鮮先生の苦心と能力のたまものである。論理はしっかりしていて、ごまかしがなかった。私がこの本にめぐり合うのに少し時間がかかったのは、おそらくレイアウトなどから、きっと難しい本なんだろうと思ったからだと思う。ファインマン物理学や岩波書店の物理入門コースなどはレイアウトの感じからわかりやすいのではと誤解していたのだ。別に本格的に勉強するつもりもなかったので安易な道を選んだのであろう。私は最初この【質点の力学】、【質点系・剛体の力学】を大学の図書館から借りてきて読んだ。あまりに素晴らしかったのでその後買った。といってものちのちページを開くことはほとんどなかったと思う。剛体の力学はその後の物理にはそう役立たなかったと思うし、この本には解析力学の記述はほとんどない。解析力学に関しては同じ原島鮮先生の【力学】で勉強したからだ。その後も原島鮮先生の本には熱力学などでお世話になった。有難うございましたと感謝したい。

2010年9月3日

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