物理のための数学の本
ここに載せてある本は、ほとんどが1995年以前に出版されたものです。リンクは単にアマゾンへリンクされているだけです。
シリーズものとしては岩波の 理工系の数学入門コース は無難というか、やさしい本でははありましたね。ただこのシリーズの中にはあまりいい本はなかったと思います。私自身は数値計算以外の本は買って大部分読んだ気がします。今手元にあるのは微分積分と確率・統計だけであとは古本屋に売ってしまいましたが。
勉強始めの頃は志賀浩二さんが書いた数学30講シリーズも結構読みましたね。これは純粋数学の本です。ただ、ねっ転がって読んだので身には着きませんでした。私の場合、物理を勉強する大きな理由として、世の中をしっかりしたというか厳密な論理で理解したいというのがありましたから、最初の内は数学的厳密性というのには結構こだわりましたね。今は数学的厳密性(この言葉にもいろいろな意味があると思いますが)に対するこだわりはありません。より深い理解と数学的厳密性は違いますから。
それからスミルノフの高等数学教程シリーズは、なかなか味のあるシリーズでした。このシリーズは講義調に書かれていて、定義・定理というよくある数学書とはだいぶ雰囲気が違います。驚きなのは全12巻をたった一人で執筆していることです。日本人じゃ~ありえないでしょう。内容は現代数学の用語を使わない古典的な物理数学です。だからとっつきやすいですよ。現代的な説明とは異なる説明などがあって、こういう見方もあるんだな~と理解が深まった記憶がありますよ。こんなの全巻読んで理解するなんて不可能だしする必要もないと思いますが・・・。何冊か持っていたのですが、古本屋に売ってしまったのが後悔です。
数学は最初は困難を感じるとは思いますがじきに慣れてきて、数学ができないから物理がわからないということはなくなると思います。
微分積分
やさしい本としては岩波の理工系の数学入門コースの微分積分 (理工系の数学入門コース 1)
は読みやすかったような気がします。微分積分自体はそう困難なところはないんじゃないでしょうか。偏微分はただ変数が2変数になっただけですし、重積分もしかり。私の場合高校生の時に矢野健太郎先生「解法のてびき」で基礎ができていたしで困難はなかったと思います。積分の意味や微分の意味をしっかりつかめればいいんじゃないでしょうかね。数学的にしっかりした本としては高木貞二さんの解析概論
がいい本でした。マイナーな本で今は売っていないと思いますが、内田老鶴圃という出版社の「解析学入門」という本は非常にいい本でした。これは確か教養の時の教科書で私が確か3年目2年のときに、友人からこの本を借りて返さず今もあるという本です。著者は入江昭二他多数です。
あと、数値計算をやると解析学の理解が深まると思います。微分積分の本質は数値計算にありというのが私の考えです。私は無理数というものに非常に興味を持っていたのですが、πの歴史のような本をよんでいて、無理数とは何かというものがわかったと思いました。要するに無理数というのは有理数を2つのグルーブ分けする方法のことなのだと。これはデデキントの切断の概念です。私も解析概論の付録にあるデデキントの切断を読みましたがピンときませんでした。その後、ボアンカレの科学と仮説だったと思いますが、無理数とは有理数を分割する記号のようなものというようなことが書いてあって、ちょっとわかった気がしましたが、πの数値計算の歴史のようなものをよんでいて、無理数とは何かというのがわかったと思いました。だいぶ昔の話なので記憶が正確ではないかもしれませんが。とにかく、数値計算をやると微分積分、微分方程式の理解は大いに進むと思います。微分とは数列の差のことであり、積分は数列の和なわけですから。で微分方程式は連立方程式です。
あと東大出版会から出ている解析入門 (1)
解析入門 (2)
は通読するには適当ではないですが、どんな定理の証明も出ているので辞書的には使えますよ。
線形代数
初級レベルではアントンのやさしい線型代数 がお薦めです。キーポイント線形代数 」もお薦めします。これは体系的な本ではないのですが、線形代数学の要所となる考え方をわかりやすく述べていたと思います。より高いレベルでは共立出版の線形数学 Ⅰ (共立数学講座) と 線形数学 Ⅱ (共立数学講座) はいい本でした。ただ、より高いレベルといっても、「アントンのやさしい線形代数」で省略されている証明がでていたり、少し細かい話題が出ているという意味です。基本的な考えは「アントンのやさしい線形代数」で論理一貫して説明されていたはずです。あとこれも数学的な本ですが線型代数入門 (基礎数学 (1))を私は持ってはいます。部分的に読みましたが、少し簡潔すぎるなあと言う気はします。
線形代数という学問は決して難しくないと思うんです。しかし教科書が悪い。どういうふうに悪いかというと純粋数学の言葉で書いてある。ベクトル空間の定義を読んで、ベクトルはそういうものかとスッと頭に入ってくる人がいるでしょうか。ベクトルというのは要は2つ以上の量のことだと思います。そして線形変換とは幾つかの量と幾つかの量が比例するということ。つまりある量とある量の対応がその量の大きさによらず一定であること。それが本質だと思います。その本質がわかっていれば、ローレンツ変換など線形変換以外あり得ないというのは自明に思えるはずです。
それから線形代数の話題と言えば、ベクトルの次元。これは1次方程式の解の存在と関係が有り、それは行列式で決まる。それから線形座標変換。これも一種の線形変換と考えていいと思います。あとは固有値のこと。こんなものかな。高校ではベクトルとは空間の矢印として扱っていると思います。でもベクトルを空間の矢印だと思うのはよくないんじゃないかと思っています。証明を空間上の直感に頼ってしまうというのかな~。それよりも2つ以上の量のことだと思った方がいいと思います。そうするとベクトルの「大きさ」とか、「内積」などという概念も線形代数には必要ないということもわかると思います。
「内積」とか「直交」とか「大きさ」なんて直交行列のときにちょっと必要なだけじゃないのかな~。
ベクトル解析
微分積分の延長のようなものですから、わざわざ取り上げる必要もないとおもうのですがマグロウヒルの演習書ベクトル解析 はいい本でした。問題を解きながら順次証明を完成していくという感じの本で非常にわかりやすかった記憶があります。今はオーム社から出てるのかな。
複素関数論
マグロウヒルからでていた(今は変わったよう)複素関数入門 原著第4版 新装版チャーチル/ブラウン共著は非常にわかりやすいほんでした。 実際のところは物理の勉強には複素関数論はほとんど必要ないんじゃないでしょうかね。ただ、三角関数よりexp表示の方が微分積分が少し便利だどいうだけで。学問的にはそれなりに面白かった気がします。
応用数学の本によくある間違いなのですが、複素数の割り算を紹介するときに \[ \frac{1}{1+i} \] という数は、というときに 両辺に\(1-i\)を掛けて \[ \frac{1}{1+i}=\frac{(1)(1-i)}{(1+i)(1-i)}=\frac{1-i}{2} \] と計算しています。しかしながらなぜ、分母と分子に同じ数を掛けたら、同じ数になるのでしょうか。そんな理由は微塵もないはずです。もちろん割り算の定義をそういうものだと、つまり \[ \frac{1}{1+i}=\frac{(1)(1-i)}{(1+i)(1-i)} \] の左辺は右辺で定義されているとするならそれはそれでいいでしょう。しかしながら、そう定義したなら、 \[ \left(\frac{1}{1+i}\right)\times(1+i) \] を安易に1とすることはできないはずです。分母と掛ける数が打ち消し合うと言う理由はないはずです。もし割り算をそのように定義するなら、これにも証明が必要なわけです。最初に複素数を学んだときにこんなような疑問をもったと思います。こういう非論理的な説明では複素数が摩訶不思議な数に思えると思うんですよね。複素数なんて単に二つの数の組み合わせでしかないのに。割り算というのは掛け算の逆算として定義すべきだと思います。すると上の式の結果も1であることは定義から自明なわけです。もう少し説明すると \[ \frac{1}{1+i} \] という数は、\(x,y\)を実数として \[ (1+i)(x+iy)=1 \] となる\(x+iy\)のことです。この方程式を解けば\(x=1/2,y=-1/2\)で、最初に述べた分母と分子に同じ数を掛けた場合と同じ結果になります。
その他
岩波の小針さんの確率・統計入門 は面白い本でした。テンソル解析は裳華房から出ているテンソル解析 田代嘉宏著は読みやすいと思います。テンソル解析自体は全く難しくはないと思います。あと相対論を学ぶためのリーマン幾何として矢野健太郎さんが書かれたリーマン幾何学入門 で補えばいいんじゃないでしょうか。この本の3章まで読めばいいと思います。 物理では変分法が出てきます。私も当初変分法に対するそれなりに厳密な論理のある本が欲しかったのですが、変分法の本自体がなかったです。非常に不思議な感がしました。今もないと思います。で、図書館から確か科学者・技術者のための変分法 だったと思いますが、借りて読みまして、非常にわかりやすかった記憶があります。2000年以上の前の本ですがユークリッドの原論 はいい本です。わたしにとってはいい本どころか、驚きと感銘の本ですね。視野が広がって、考えが深くなりましたよ。クーラント・ヒルベルトの数理物理学の方法 は図書館で借りてつまみ読みしましたが、なかなか味のある本でした。数学の事典ですが、岩波から出ている数学辞典 は物理をやる人には適さないと思います。純粋数学をやる人用ですね。私も一応持っていますがほとんど使ったことがありません。それよりも現代数学小事典 (ブルーバックス) の方が値段も安いし読みやすくていいと思います。