解 析 力 学

第1章 数学的準備

この章では解析力学で使う数学について簡単に説明する。この章から読む必要は全くなく、適宜参照してもらえればよいと思う。

1-1節 記号・用語の定義

時間微分

\(x(t)\)を時間\(t\)の関数とする。時間微分\(\frac{dx}{dt}\)を簡潔に \[ \dot{x}\equiv\frac{dx}{dt} \] と書く。又2回微分は \[ \ddot{x}\equiv\frac{d^2x}{dt^2} \] と書く。

\(x(t)\)が時間\(t\)の関数で、その\(x\)と\(\dot{x}\)と\(t\)の関数である\(f(x,\dot{x},t)\)の時間の全微分、\(df/dt\)とは \[ \frac{d}{dt}f(x,\dot{x},t)\equiv\lim_{\Delta t \to 0}\frac{f[x(t+\Delta t),\dot{x}(t+\Delta t),t+\Delta t]-f[x(t),\dot{x}(t),t]}{\Delta t} \] のことである。これを\(\dot{f}\)とも書く。だから\(\dot{f}\)は \[ \dot{f}=\frac{\partial\, f}{\partial\, x}\dot{x}+\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}}\ddot{x}+\frac{\partial\, f}{\partial\, t} \] となる。この右辺に出てきた\(\partial\, f/\partial\, t\)は \[ \frac{\partial\, f}{\partial\, t}=\lim_{\Delta t \to 0}\frac{f[x(t),\dot{x}(t),t+\Delta t]-f[x(t),\dot{x}(t),t]}{\Delta t} \] のことである。

不変量、スカラー

不変量というものを説明しよう。スカラーと言えばいいのかもしれない。 今例えば平面座標\((x,y)\)に依存する量、例えば温度やポテンシャル、電場等があるとする。例えばポテンシャルとして\(V(x,y)\)と書く。その\((x,y)\)を極座標に変換する。すなわち\(x=r\cos \theta,y=r\sin\theta\)である。このときポテンシャル\(V\)は\(r\)と\(\theta\)に依存する。そのことを\(V(r,\theta)\)と書く。\(V(x,y)\)と\(V(r,\theta)\)は数学の関数、すなわち、ある数からある数を与える規則(写像)としては、異なるが、このように書く。これは空間の関数である量というのが根底にあり、その空間を表すのが\((x,y)\)だったり、\((r,\theta)\)だったりと、異なるということである。このテキストでもこの表記を使う。このような量を不変量と呼び、このような書き方を不変量表示と呼ぶことにする。このような表記は物理の文献では当たり前のように使っているのだが、改めて注意してみた。

又、空間座標の変換でないときもこの表記を使う。例えば運動エネルギー\(T\)は直交座標では \[ T(x,y,\dot{x},\dot{y})=\frac{1}{2}m(\dot{x}^2+\dot{y}^2) \] で平面極座標では \[ T(r,\theta,\dot{r},\dot{\theta})=\frac{1}{2}m(\dot{r}^2+r^2\dot{\theta}^2) \] であり(注 極座標での運動エネルギーがこうなることは後で導くので、とりあえずそうだと思ってもらえれば良い)、\(T(x,y,\dot{x},\dot{y})\)と\(T(r,\theta,\dot{r},\dot{\theta})\)は関数自体は異なるが位置と速度に依存する不変量だという意味でこう書く。

1-2節 いくつかの恒等式

今後よく使う恒等式を導出しよう。 \(x_i(t)\)を時間の関数とする。\(i\)はそれが何個かあるという意味である。\(f\)を\(x_i\)と\(t\)の関数とする。すなわち\(f(x_i,t)\)とする。この\(f(x_i,t)\)について幾つか等式を証明する。\(\dot{f}\)は \begin{equation} \dot{f}=\sum_i \frac{\partial\, f}{\partial\, x_i}\dot{x_i}+\frac{\partial\, f}{\partial\, t} \label{la1} \end{equation} となる。\(\frac{\partial\, f}{\partial\, x}\)と\(\frac{\partial\, f}{\partial\, t}\)は\(x_i\)と\(t\)の関数だから\(\dot{f}\)は\(x_i\)と\(\dot{x}_i\)と\(t\)の関数になる(注 2022年10月追記:\(x_i(t)\)が、例えば\(t=0\)から10の区間で与えられていれば、\(f\)の時間微分(例えば\(t=5\)のときの)は、\(x_i(t)\)と\(t\)で決まると言える。しかし、\(x_i(5)\)のみの値だけでは\(\dot{f}(t=5)\)の値は定まらない。\(\dot{x}_i(5)\)も必要である。つまり、そういう意味で\(\dot{f}(t=5)\)は\(x_i(5)\)と\(\dot{x}_i(5)\)というある瞬間での値、それと\(t\)で決まるという意味である。)。そしてこのとき明らかに \begin{equation} \frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, \dot{x}_k}=\frac{\partial\, f}{\partial\, x_k} \label{la2} \end{equation} が成り立つ。この式はよく使うし覚えやすい。\(f\)が\(x_i\)と\(t\)のみの関数で\(\dot{x}_i\)の関数ではないときに使える等式である。左辺は\(\dot{x}_k\)以外の\(\dot{x}_i\)と\(x_i,t\)を固定、右辺は\(x_k\)以外の\(x_i\)と\(t\)を固定して偏微分するという意味である。さて式(\ref{la1})に戻ってそれを\(\dot{x}_i\)は固定して\(x_j\)で偏微分すると \begin{equation} \frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, {x}_j}=\sum_i\frac{\partial\,^2 f}{\partial\, x_j \partial\, x_i}\dot{x}_i+\frac{\partial\,^2f}{\partial\, x_j\partial\, t} \label{la3} \end{equation} となる。一方 \begin{equation} \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, x_j}\right)=\sum_i\frac{\partial\,^2 f}{ \partial\, x_i \partial\, x_j}\dot{x}_i+\frac{\partial\,^2f}{\partial\, t \,\partial\, x_j} \label{la4} \end{equation} となる。式(\ref{la3})(\ref{la4})から \begin{equation} \frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, {x}_j}=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, x_j}\right) \label{la5} \end{equation} が成り立つ。すなわち、時間の全微分と座標\(x_i\)の偏微分は順序を入れ替えても結果は同じということである。この式(\ref{la5})の右辺に等式(\ref{la2})を適用すると \begin{equation} \frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, {x}_j}=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, \dot{x}_j}\right) \label{la6} \end{equation} が成り立つことがわかる。これは\(\dot{f}\)がオイラーの方程式を必ず満たすことを示している。オイラーの方程式というのは

定義 (オイラーの方程式) \(g\)を\(x_i(t),\dot{x}_i(t),t\)の関数として \[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, g}{\partial\, \dot{x}_j}\right)=\frac{\partial\, g}{\partial\, {x}_j} \]

のことである。 今述べた等式は今後もよく使うのでまとめておこう。

定理1-1   \(f\)が\(x_i(t)\)と\(t\)の関数、すなわち\(f(x_i(t),t)\)であるとき、

  性質1 \(\dot{f}\)は\(x_i,\dot{x}_i,t\)の関数である。

  等式2  \(\displaystyle \frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, \dot{x}_k}=\frac{\partial\, f}{\partial\, x_k} \)  (ドットの消去)

  等式3  \(\displaystyle \frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, {x}_j}=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, x_j}\right) \)  (時間の全微分と座標偏微分は交換可能)

  等式4  \(\displaystyle \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, \dot{x}_j}\right)=\frac{\partial\, \dot{f}}{\partial\, {x}_j} \)  (\(\dot{f}\)はオイラーの方程式を満たす)

例1-1

ここで直交座標と極座標の変換式\(x=r\cos\theta\)で定理1-1の4つの関係を確認してみよう。今の場合、定理1-1での\(f,x_i\)はそれぞれ \[ f\to x\qquad x_1,x_2\to r,\theta \] に対応する。 まず \begin{equation} \dot{x}=\dot{r}\cos\theta-r\sin\theta\cdot\dot{\theta} \label{tot} \end{equation} であり、\(\dot{x}\)は\(r,\theta,\dot{r},\dot{\theta}\)の関数となっており、確かに性質1の関係が成り立っている。又この式から \[ \frac{\partial\, \dot{x}}{\partial\, \dot{r}}=\cos\theta \] 一方\(x=r\cos\theta\)から \[ \frac{\partial\, \,x}{\partial\,\, r}=\cos\theta \] よって \begin{equation} \frac{\partial\, \dot{x}}{\partial\, \dot{r}}=\frac{\partial\, x}{\partial\, r} \label{等} \end{equation} これで等式2の確認ができた。又 \[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, x}{\partial\, r}\right)=-\sin\theta \cdot\dot{\theta} \] 一方、式(\ref{tot})から \[ \frac{\partial\, \dot{x}}{\partial\, r}=-\sin\theta\cdot\dot{\theta} \] よって \[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, x}{\partial\, r}\right)=\frac{\partial\, \dot{x}}{\partial\, r} \] これで等式3の確認ができた。そして式(\ref{等})をこの左辺に入れれば等式4が確認できる。【例終】

1-3節 オイラーの式の座標変換

もう一つ解析力学でよく使う等式を証明しよう

定理1-2  いくつかの時間の関数\(x_i(t)\)があり、\(x_i\)はいくつかの変数\(q_\alpha\)と\(t\)の関数だとしよう。すなわち \begin{eqnarray} x_1&=&x_1(q_1,q_2,\cdots,t)\notag\\ x_2&=&x_2(q_1,q_2,\cdots,t)\notag\\ &&\cdots\cdots\cdots\notag\\ &&\cdots\cdots\cdots \label{of2} \end{eqnarray} だとしよう。\(x_1=x_1(q_1,q_2,\cdots,t)\)というのは\(x_1\)という量は\(q_1,q_2,\cdots,t\)の関数だという意味である。 \(f\)を\(x_i,\dot{x}_i,t\)の関数としよう。これは\(f\)は最大でも\(x_i,\dot{x}_i,t\)にしか依存しないという意味で\(\ddot{x}\)以上は含まないという意味である。だから\(f=\dot{x}^2+t\)というように\(x\)を含まなくてもよい。 このとき \begin{equation} \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{q}_\alpha}\right)-\frac{\partial\, f}{\partial\, {q}_\alpha} =\sum_i \frac{\partial\, x_i}{\partial\, q_\alpha}\left[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i}\right)-\frac{\partial\, f}{\partial\, {x}_i} \right] \label{of} \end{equation} が成り立つ。

式(\ref{of})の左辺は \[ f=f(q_\alpha,\dot{q}_\alpha,t) \] と考え、例えば\(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{q}_1}\)なら\(\dot{q}_1\)以外の\(\dot{q}_\alpha\)と\(q_\alpha,t\)を固定して偏微分するという意味である。右辺は\(f=f(x_i,\dot{x}_i,t)\)と考えての偏微分である。 \(x_i\)と\(q_\alpha\)は座標変換の関係と考えてもらえばよいのだが、必ずしも\(q_\alpha\)が\(x_i\)で表される必要はない。すなわち式(\ref{of2})の逆変換は不可能でもよい。 この式(\ref{of})の意味は、左辺も右辺も\(q_\alpha,\dot{q}_\alpha,\ddot{q}_\alpha,t\)で表されるのだが、両辺とも\(q_\alpha,\dot{q}_\alpha,\ddot{q}_\alpha,t\)で表したときに、この変数の恒等式になるということである。式(\ref{of})はテンソルの言葉を使えば、オイラーの方程式の式の部分は共変ベクトルとして変換するということである。 証明は淡々と式変形するだけである。
【証明】

\begin{eqnarray} \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{q}_\alpha}\right)-\frac{\partial\, f}{\partial\, {q}_\alpha} &=& \frac{d}{dt}\left(\sum_i\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, \dot{q}_\alpha}\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i}\right) -\left(\sum_i\frac{\partial\, x_i}{\partial\, q_\alpha}\frac{\partial\, f}{\partial\, x_i}+\sum_i\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, q_\alpha}\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i}\right)\notag\\ &=& \sum_i\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, \dot{q}_\alpha}\right)\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i} +\sum_i\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, \dot{q}_\alpha}\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i}\right)- \sum_i\frac{\partial\, x_i}{\partial\, q_\alpha}\frac{\partial\, f}{\partial\, x_i} -\sum_i\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, q_\alpha}\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i}\notag \end{eqnarray}

第2項で定理1-1の等式2のドットの消去 \[ \frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, \dot{q}_\alpha}=\frac{\partial\, x_i}{\partial\, q_\alpha} \] を使い、第2項と第3項をまとめ、第1項と第4項をまとめると \[ \sum_i\frac{\partial\, x_i}{\partial\, q_\alpha}\left[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i}\right)-\frac{\partial\, f}{\partial\, {x}_i}\right]+ \sum_i\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}_i}\left[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\,\dot{q}_\alpha}\right)-\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, q_\alpha}\right] \] となる。そしてこの第2項は\(\dot{x}_i\)が時間の全微分なので定理1-1の等式4の\(\dot{f}\)を\(\dot{x}_i\)と考えれば \[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\,\dot{q}_\alpha}\right)-\frac{\partial\, \dot{x}_i}{\partial\, q_\alpha}=0 \] である。よって式(\ref{of}) が成り立つわけである。【証明終】
定理1-2から、ただちに

定理1-3 ある座標\(x\)系で\(f(x,\dot{x},t)\)に対してオイラーの方程式が成り立ち、その\(x\)座標を別の座標\(q\)で表せるなら、\(q\)座標系でも\(f(q,\dot{q},t)\)に対してオイラーの方程式が成り立つ。ここでの\(f\)は不変量表示とする。

といえる。

例1-3

\[ f=\dot{x}^2+x^2 \qquad x=q^2 \] として、この等式が成り立っていることを確認してみよう。 まず \[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}}\right)-\frac{\partial\, f}{\partial\, x} =2\ddot{x}-2x \] である。そして \[ \dot{x}=2q\dot{q}\qquad \ddot{x}=2\dot{q}^2+2q\ddot{q}\qquad \frac{\partial\, x}{\partial\, q}=2q \] なので式(\ref{of})の右辺を\(q\)座標系で表すと \begin{eqnarray} \frac{\partial\, x}{\partial\, q}\left[\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{x}}\right)-\frac{\partial\, f}{\partial\, x}\right] &=&2q(2\ddot{x}-2x)\notag\\ &=& 2q\left[2(2\dot{q}^2+2q\ddot{q})-2(q^2)\right]\notag\\ &=&8q\dot{q}^2+8q^2\ddot{q}-4q^3\notag \end{eqnarray} となる。一方\(f\)を\(q\)座標系で表すと \begin{eqnarray} f&=&\dot{x}^2+x^2=(2q\dot{q})^2+(q^2)^2\notag\\ &=&4q^2\dot{q}^2+q^4\notag \end{eqnarray} だから式(\ref{of})の左辺は \begin{eqnarray} \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial\, f}{\partial\, \dot{q}}\right)-\frac{\partial\, f}{\partial\, q} &=&\frac{d}{dt}(8q^2\dot{q})-(8q\dot{q}^2+4q^3)\notag\\ &=&16q\dot{q}^2+8q^2\ddot{q}-8q\dot{q}^2-4q^3\notag\\ &=&8q\dot{q}^2+8q^2\ddot{q}-4q^3\notag \end{eqnarray} となり左辺と右辺が\(q,\dot{q},\ddot{q}\)の恒等式になっていることが確認できた。もちろん、これを\(x\)座標系で表せば\(x,\dot{x},\ddot{x}\)の恒等式になっているはずである。【例終】

1-4節 陰関数定理

次章以降でよく使うのでここに陰関数定理を紹介しよう。\(x_1,x_2\)から\(y_1,y_2\)への写像を考える。 \[ y_1=f_1(x_1,x_2)\qquad y_2=f_2(x_1,x_2) \] で微小変位の間には \[ \left(\begin{array}{c} \Delta y_1\\ \Delta y_2 \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc} \frac{\partial\, f_1}{\partial\, x_1}&\frac{\partial\, f_1}{\partial\, x_2}\\ \frac{\partial\, f_2}{\partial\, x_1}&\frac{\partial\, f_2}{\partial\, x_2} \end{array}\right) \left(\begin{array}{c} \Delta x_1\\ \Delta x_2 \end{array}\right) \] の関係がある。ここで\(x_1,x_2\)のある領域で行列 \[ \left(\begin{array}{cc} \frac{\partial\, f_1}{\partial\, x_1}&\frac{\partial\, f_1}{\partial\, x_2}\\ \frac{\partial\, f_2}{\partial\, x_1}&\frac{\partial\, f_2}{\partial\, x_2} \end{array}\right) \] の行列式が0でないときは、その領域では\(\Delta y_1,\Delta y_2\)から\(\Delta x_1,\Delta x_2\)への写像を一意的に定めることができる。これは線形代数の逆行列が存在する場合との類似で考えればよく分かるであろう。微小変位間での逆関数があるということは、行列式が0でない領域では\(y_1,y_2\)から\(x_1,x_2\)への写像が一意的に定まるということである。このことは変数が何個あっても同じなので

定理1-4 (陰関数定理)  独立変数\(x_i\)と従属変数\(y_i\)の個数は同じで、\(x_i\)から\(y_i\)への写像 \[y_i=f_i(x_i)\] で \[\det\left|\frac{\partial\, f_i}{\partial\, x_j}\right|\ne 0\] なら\(y_i\)から\(x_i\)への写像を一意的に定めることができる(注 2022年10月追記:尚、この逆は言えない。\(f(x)=x^3\)なら、\(df/dx=3x^2\)であり、\(x=0\)で\(df/dx=0\)となるが、逆関数を一意的に定められる。)

\(x_1,x_2,z\)から\(y_1,y_2\)への写像 \[ y_1=f_1(x_1,x_2,z)\qquad y_2=f_2(x_1,x_2,z) \] で\(x_1,x_2,z\)のある領域で行列 \[ \left(\begin{array}{cc} \frac{\partial\, f_1}{\partial\, x_1}&\frac{\partial\, f_1}{\partial\, x_2}\\ \frac{\partial\, f_2}{\partial\, x_1}&\frac{\partial\, f_2}{\partial\, x_2} \end{array}\right) \] の行列式が0でないとき、その領域では\(z\)を固定すれば陰関数定理より\(y_1,y_2\)から\(x_1,x_2\)への写像が一意的に定まる。\(z\)を変化させればこの写像も変わるので\(y_1,y_2,z\)から\(x_1,x_2\)への写像が一意的に定まる。このことは変数が何個あっても同じである。

定理1-5 (陰関数定理の系)  \(x_i\)と\(y_i\)の個数は同じで、\(x_i,z_i\)から\(y_i\)への写像 \[y_i=f_i(x_i,z_i)\] で \begin{equation} \det\left|\frac{\partial\, f_i}{\partial\, x_j}\right|\ne 0 \label{josiki} \end{equation} なら\(y_i,z_i\)から\(x_i\)への写像を一意的に定めることができる。

次の定理は第5章、第6章で使うのだが話のついでにここに載せることにした。

定理1-6  \(x_i\)と\(a_i\)の個数は同じとする。\(x_i,a_i\)のある関数\(f(x,a)\) を使って \[ \frac{\partial\, f(x,a)}{\partial\, x_i}=y_i \qquad\qquad \frac{\partial\, f(x,a)}{\partial\, a_i}=b_i \] と\(x,a\)から\(y,b\)への写像を定めるとする。このとき\(f(x,a)\)が \begin{equation} \det\left|\frac{\partial\, ^2f}{\partial\, a_j\partial\, x_i}\right|\ne 0 \label{josiki2} \end{equation} を満たすなら、 変数\((x,a)\)と変数\((x,y)\)と変数\((a,b)\)はどの組をとっても互いに逆変換可能な変換となる。すなわち\((x,y)\leftrightarrow (x,a)\leftrightarrow (a,b)\)となる。

【証明】\(x,a\)から\(x,y\)への写像は単に \[ x_i=x_i \qquad\qquad y_i=\frac{\partial\, f(x,a)}{\partial\, x_i} \] なので、存在する。その逆の\(x,y\)から\(x,a\)への写像が存在するかは、\(a\)が\(x,y\)で表されるかどうかということである。 それは\(\frac{\partial\, f}{\partial\, x_i}\)を定理1-5の\(f_i\)の役だと考えれば、式(\ref{josiki2})が成り立つということは式(\ref{josiki})が成り立つということだから\(a\)は\(x,y\)で表せる。すなわち\(x,y\)から\(x,a\)への写像が存在する。だから \((x,a)\)と\((x,y)\)は互いに逆変換可能である。\(a,b\)と\(x,y\)の役割は全く同じなので\(\frac{\partial\, f(x,a)}{\partial\, a_i}=b_i\)を使えば\((x,a)\)と\((a,b)\)も逆変換可能だと言える。 【証明終】

1-5節 恒等式について

恒等式についての理解は解析力学の理解の鍵だと思う。今から当たり前のことを述べるが大事なことである。 \[ (x+y)^2=x^2+2xy+y^2 \] という式は\(x,y\)がどんな値でも成り立つ。そういう式を\(x,y\)についての恒等式という。この式は \[ (x+y)^2-(x^2+2xy+y^2)=0 \] と同値なので、右辺が\(0\)である恒等式について説明することにする。 \[ x=\alpha+\beta\qquad\qquad y=\alpha-\beta \] という関係で結ばれているとしよう。これを上の式に代入した式 \[ \big[(\alpha+\beta)+(\alpha-\beta)\big]^2-\big[(\alpha+\beta)^2+2(\alpha+\beta)(\alpha-\beta)+(\alpha-\beta)^2\big]=0 \] は\(\alpha,\beta\)がどんな値でも成り立つので、この式は\(\alpha,\beta\)の恒等式である。すなわち、\(f(x,y)=0\)が\(x,y\)についての恒等式であるとき、この\(x,y\)が別の変数\(\alpha,\beta\)で表した \(f(\alpha,\beta)=0\)という式も\(\alpha,\beta\)の恒等式になる。今述べたことを2変数でなく一般化して言うと以下のことが言える。

定理1-7  \(x_i\)から\(y_i\)への変換は逆変換可能だとする。このとき \[ f(x_i)=0 \] が\(x_i\)についての恒等式であることと \[ f(y_i)=0 \] も\(y_i\)についての恒等式となることは同値である。ここで\(f\)は不変量表示とする。

今\(x(t),y(t)\to\alpha(t),\beta(t)\)への変換が逆変換可能とする。変換には時間\(t\)を含んでいても良い。 このとき\(x,y,\dot{x},\dot{y}\)も\(\alpha,\beta,\dot{\alpha},\dot{\beta}\)で表せる。というのは \(x(t),y(t)\to\alpha(t),\beta(t)\)への変換が逆変換可能なので \[ x=x(\alpha,\beta,t)\qquad\qquad y=y(\alpha,\beta,t) \] とあらわせる。そして\(\dot{x},\dot{y}\)は \[ \dot{x}=\frac{\partial\, x}{\partial\, \alpha}\dot{\alpha}+\frac{\partial\, x}{\partial\, \beta}\dot{\beta}+\frac{\partial\, x}{\partial\, t} \] \[ \dot{y}=\frac{\partial\, y}{\partial\, \alpha}\dot{\alpha}+\frac{\partial\, y}{\partial\, \beta}\dot{\beta}+\frac{\partial\, y}{\partial\, t} \] と表せる。だから\(x,y,\dot{x},\dot{y}\)は\(\alpha,\beta,\dot{\alpha},\dot{\beta},t\)で表せる。同様に、\(x(t),y(t)\to\alpha(t),\beta(t)\)への変換があるというのだから、当然 \[ \alpha=\alpha(x,y,t)\qquad\qquad \beta=\beta(x,y,t) \] と表せる。そして\(\dot{\alpha},\dot{\beta}\)は \[ \dot{\alpha}=\frac{\partial\, \alpha}{\partial\, x}\dot{x}+\frac{\partial\, \alpha}{\partial\, y}\dot{y}+\frac{\partial\, \alpha}{\partial\, t} \] \[ \dot{\beta}=\frac{\partial\, \beta}{\partial\, x}\dot{x}+\frac{\partial\, \beta}{\partial\, y}\dot{y}+\frac{\partial\, \beta}{\partial\, t} \] と表せる。だから\(\alpha,\beta,\dot{\alpha},\dot{\beta}\)は\(x,y,\dot{x},\dot{y},t\)で表せる。だから\(x,y,\dot{x},\dot{y}\to \alpha,\beta,\dot{\alpha},\dot{\beta}\)の変換も逆変換可能であるというわけである。

今は2変数の場合を説明したが、このことは何変数でも成り立つことである。一般には以下のように言える。

理1-8  \(x_i(t)\)から\(y_i(t)\)への変換は逆変換可能だとする。この変換は時間を含んでいても良い。 この時 \(x_i\dot{x}_i\)から\(y_i,\dot{y}_i\)への変換も逆変換可能である。

そして定理1-7と定理1-8を組み合わせれば以下のことが言える。

理1-9  \(x_i(t)\)から\(y_i(t)\)への変換は逆変換可能だとする。この変換は時間を含んでいても良い。 \[ f(x_i,\dot{x}_i,t)=0 \] が変数\(x_i,\dot{x}_i,t\)について恒等式であることと \[ f(y_i,\dot{y}_i,t)=0 \] が変数\(y_i,\dot{y}_i,t\)について恒等式になることは同値である。ここでも\(f\)は不変量表示とする。

1-6節 偏微分についての注意

\(x\)と\(y\)の関数\(f(x,y)\)が \[ f(x,y)=x+y \] のとき \[ \frac{\partial\, f}{\partial\, x}=1 \] である。 \[ x=x\qquad\qquad y=x+z \] というように\(x,y\)から\(x,z\)へ変数変換すると\(f\)は \[ f=x+y=x+x+z=2x+z \] と表される。だから不変量表示では \[ f(x,z)=2x+z \] である。 このとき \[ \frac{\partial\, f}{\partial\, x}=2 \] である。同じ\(x\)で微分するのでも\(f\)を何で表すかによって値が異なることに注意して欲しい。最初のは\(f\)という量を\(x,y\)で表したときの\(x\)による偏微分であり、それを明示したいときは \[ \frac{\partial\, f(x,y)}{\partial\, x} \] と書く。次のは\(f\)という量を\(x,z\)で表したときの\(x\)による偏微分であり、 \[ \frac{\partial\, f(x,z)}{\partial\, x} \] と書く。ただ何で表しているかが明白なときは単に \[ \frac{\partial\, f}{\partial\, x} \] とも書く。

PDFファイルA4、158ページ、1.8MB

目次

序文

記号・用語

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

第7章

第8章

第9章

第10章

付録A

付録B

付録C

付録D

おわりに