解 析 力 学

付録B 正準変換のための必要条件ではないこと

定理5-6で正準変換となるための十分条件を述べたが、それは必要条件ではないと述べた。そのことを示そう。そのために、 \begin{equation} Q=q+p-t\qquad\qquad P=q-p+t \label{kore1} \end{equation} \[ H=-q\qquad\qquad K=0 \] という変換は正準変換になっているが \begin{equation} \mathcal{L}'=\mathcal{L}+\frac{dF}{dt} \label{wom} \end{equation} を満たす\(F(q,p,t)\)は存在しない事を示せればよい。
まずこれが正準変換になっているこを示そう。図5-2の手順で示す。変換式(\ref{kore1})より \begin{equation} \dot{Q}=\dot{q}+\dot{p}-1\qquad\qquad \dot{P}=\dot{q}-\dot{p}+1 \label{kore2} \end{equation} である(A-1)。この(A-1)は図5-2中の手順を示す。以下同じ。又、\(q,p\)についての正準方程式より \[ \dot{q}=0\qquad\qquad\dot{p}=1 \] である。これを式(\ref{kore2})に代入すると \[ \dot{Q}=0\qquad\qquad\dot{P}=0 \] を得る(A-2)。 一方\(Q,P\)についての正準方程式より \[ \dot{Q}=0\qquad\qquad \dot{P}=0 \] である(B-1)。 よって\(K,Q,P\)は正準方程式を満たす。すなわち正準変換になっているということである。

次にこの変換では式(\ref{wom})を満たす\(F(q,p,t)\)は存在しないことを示そう。 \(\mathcal{L'}\)を式(\ref{kore1})、(\ref{kore2})を使って、\(q,p,\dot{q},\dot{p},t\)で表すと \[ P\dot{Q}-K=(q-p+t)(\dot{q}+\dot{p}-1)-0=\dot{q}(q-p+t)+\dot{p}(q-p+t)-q+p-t \] となる。又\(\mathcal{L}\)を、\(q,p,\dot{q},\dot{p},t\)で表すと \[ p\dot{q}-H=p\dot{q}+q \] となる。だから\(\mathcal{L'}-\mathcal{L}\)は \[ \Big(\dot{q}(q-p+t)+\dot{p}(q-p+t)-q+p-t\Big) - \Big(p\dot{q}+q\Big) =\dot{q}(q-2p+t)+\dot{p}(q-p+t)-2q+p-t \] である (注  2022年10月追記:正準変換のための必要十分条件は\(\mathcal{L'}=\mathcal{L}+G\)で、\(G\)がオイラーの方程式を満たすことであった。今の場合このことが成り立っていることを示そう。今の場合 \[ G=\dot{q}(q-2p+t)+\dot{p}(q-p+t)-2q+p-t \] である。この\(G\)に関するオイラーの方程式は \[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial G}{\partial \dot{q}}\right)=\frac{\partial G}{\partial q}\Longleftrightarrow \frac{d}{dt}(q-2p+t)=\dot{q}+\dot{p}-2\Longleftrightarrow \dot{p}=1 \] \[ \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial G}{\partial \dot{p}}\right)=\frac{\partial G}{\partial p}\Longleftrightarrow \frac{d}{dt}(q-p+1)=-2\dot{q}-\dot{p}+1\Longleftrightarrow \dot{q}=0 \] である。 最初の設定より、\(\dot{q}=0,\dot{p}=1\)なので、この\(G\)はオイラーの方程式を満たしている。故に正準変換になる。 ) 。これが\(dF/dt\)と\(q,p,\dot{q},\dot{p},t\)に関して恒等式となるためには \[ \frac{\partial\, F}{\partial\, q}=q-2p+t\qquad\qquad\frac{\partial\, F}{\partial\, p}=q-p+t \] でなければならない。この式を満たす\(F(q,p,t)\)が存在するためには \[ \frac{\partial\,}{\partial\, p}\left(\frac{\partial\, F}{\partial\, q}\right) = \frac{\partial\,}{\partial\, q}\left(\frac{\partial\, F}{\partial\, p}\right) \] を満たしていなければならないが、 満たしていない。だから \[ \mathcal{L'}=\mathcal{L}+\frac{dF}{dt} \] を満たすような\(F(q,p,t)\)は存在しない。

PDFファイルA4、158ページ、1.8MB

目次

序文

記号・用語

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

第7章

第8章

第9章

第10章

付録A

付録B

付録C

付録D

おわりに