解 析 力 学

序文

このテキストは解析力学の教科書、解説書を意図して書いたものである。しかし内容は通常の教科書とは大きく異る。通常の教科書との違いは、数学的構造の理解に努めたので、応用的なものがないこと。剛体の運動や微小振動についての記述がないこと。それから変分法のハミルトンの原理を論理上使っていないこと。ハミルトンヤコビの方程式について詳しいこと。変分法に関しては力学軌道が最小になるかを調べていること。正準変換について例を多く入れ詳しく解説したこと。等々である。

解析力学という学問は物理学というより応用数学に近いであろう。解析力学には物理法則というものは一切でてこないし、実験についても何の言及もない。 物理法則というのは、事実についての記述であり、こういうときはこういうことが起きるという命題である。すべての物は引き合うとか、押せば動くとかいうことである。そういう記述が解析力学にはない。

解析力学は数学と言っても18世紀、19世紀の数学である。方程式の名前から想像すると、その頃の数学者のオイラー、ラグランジュ、ヤコビ、ハミルトンたちが作ったものであろう。だから今の数学とは違う。厳密ではないし、今の数学にあるようなわけのわからない用語もでてこない。

解析力学を学ぶことによって力学をより深く理解できるようになるかというと、そういうことはないだろう。実際の計算にもほとんど役には立たないし、解析力学を学ぶことによって見通しがよくなるということもない。加速度は力に比例するという法則がわかり易すぎるのである。 役に立たないと言っても、それはここで扱う内容の解析力学を形式的なラグラジアンとかハミルトニアンとかハミルトンヤコビの方程式などに限定しているからである。世間の解析力学の教科書は剛体や微小振動などの記述がある。そういうのは実際の計算にも役立つし、そういうことを学べば現象を見通しよくさせてくれるであろう。だがこのテキストにはそういうことは書いていない。

量子力学を学ぶのに解析力学が必要だというような話をたまに見かけるが、全く必要ないと思う。前期量子論では必要だったようだが、今の量子力学では必要ない。ただ、量子力学の教科書にはハミルトニアンとかラグランジアンとかいう用語が出て来るので、その言葉の意味くらいは知っていた方がいいだろう。それでも解析力学の知識は、古典論と量子論のつながりの理解に多少は役に立つ。それはハミルトンヤコビの方程式の解とシュレディンガー方程式の解の位相との関係。シュレディンガー方程式でのプロパゲーターの位相とラグランジアンの時間積分の関係などである。 応用数学といってもいい解析力学が物理学科で教えられるのは単なる昔からの習慣のためであろう。

簡単に内容について紹介しよう。 まず第1章で後の章で使う用語の説明や数学の説明をした。ここは軽く目を通すか、飛ばしてもらって適宜参照してもらえば良いと思う。 次の章から解析力学の説明をする。 第2章でラグランジュ方程式について説明した。応用的なものにはほとんど触れていない。次の第3章でラグランジュ方程式の幾何学的意味を考察した。この章は筆者の趣味のようなものなので飛ばしてもらえば良い。第4章でハミルトニアンと正準方程式について説明した。ハミルトニアンというものはラグランジアンのルジャンドル変換であるということを強調した。第5章で正準変換について説明した。正準変換というのはわかりづらいので飛ばしたほうがよいかもしれない。後の理解に関係あるのはハミルトンヤコビの方程式の導出だけだが、その証明はより簡潔に次の章で行っている。正準変換の記述は、例や例題を多く入れて、わかりやすくなるように相当努力したつもりである。第6章ではハミルトンヤコビの方程式について説明した。一般的な議論はあとに回して、具体例を通してハミルトンヤコビの方程式を理解できるように記述した。世間の解析力学の教科書ではハミルトンヤコビの方程式についてはほんの僅かしかふれられていないので、この章の内容はそれなりの価値があると思う。量子力学とのつながりを重視した記述をした。ここで解析力学の内容は終わりと言っていい。次の第7章で変分法と解析力学の関わりを述べた。力学の法則を満たす軌道はラグランジアンの時間積分の停留関数になるということである。いわゆる、ハミルトンの原理なるものである。このテキストでは変分法は脇役的に扱った。多くの教科書ではこのハミルトンの原理を式の導出や証明などに使っているようだが、このテキストではそういうことはしていない。それは、まず第1に停留という概念が(最小なら分かり易いが)わかりづらいからである。第2に変分法が数学的厳密性に掛けていると思うからである。それよりも我々が慣れ親しんだ微分の方法で式を導出したほうがよいと思ったからである。ラグランジュ方程式も正準方程式もハミルトンヤコビの方程式も変分法を使わずに導出できる。この章では力学の法則を満たす軌道が停留関数であるということだけでなく、最小関数になるかということも考察した。第8章では最小作用の原理について説明した。ここでは1粒子の系に限定した。 力学の法則を満たす軌道は作用積分の停留軌道になることを証明し、又、おそらく最小軌道になるであろう理由を示した。第9章ではファインマンの経路積分を簡単に紹介した。こんなものを解析力学のテキストに入れたのは、解析力学と変分法の知識がいかせるからである。最後の第10章で荷電粒子と電磁場のラグランジアンとハミルトニアンについて紹介した。これは量子電磁気学の準備のための章である。

解析力学の方程式、ラグランジュ方程式、ハミルトンの正準方程式、ハミルトンヤコビの偏微分方程式というのはニュートンの運動方程式から演繹されたものである。変分法のハミルトンの原理や最小作用の原理もそうである。この中で実際の計算に役立つのはラグランジュ方程式くらいなものである。解析力学も他の学問同様、深く広く研究すれば、キリがない。記述の量は私の知識と飽きの程度に依存している。

わかりやすくなるように、相当な努力はしたつもりである。そして、それはしんどい作業であった。 他の本をほとんど参照していないので用語、記号などが異なるかもしれない。又、思わぬ誤りもあるかもしれない。誤りなどを下記のメールアドレスに送っていただければ幸いである。

もし内容がわかりづらければ、それは私が内容をよくわかっていないからであろう。説明の明快さと著者の理解の程度は関係があるのである。

2017年12月

2018年10月27日、誤植などの簡単な訂正をしました。内容に変更はありません。

2020年8月17日、8月27日、誤植を訂正をしました。内容に変更はありません。

2022年10月、誤植の訂正、簡単な修正、誤りの訂正、追記を行いました。内容自体は変わっていません。誤りの訂正と言うのは主に、行列式が0であることが、逆変換可能な必要条件であると勘違いしていたところです。テキストの途中から勘違いしていました。追記はいくつか行いましたが、主に、正準変換のための必要条件についてです。一階偏微分方程式についてのおおよその知識を得たので、その観点から、ハミルトンヤコビの方程式の章を書き換えようかとも思いましたが、大変そうなので、こちらの方は、軽く追記した程度にとどめました。

PDFファイルA4、158ページ、1.8MB

目次

序文

記号・用語

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

第7章

第8章

第9章

第10章

付録A

付録B

付録C

付録D

おわりに