付録D 演算子のエルミート性
固有ベクトル法で出てきた演算子のエルミート性を示す。ここで位置の確率振幅は遠方では消えるものに制限する。これは妥当な制限である。地球にある電子がアンドロメダ星雲まで広がっていると考えても意味がなかろう。
運動量演算子
\(f,g\)を位置\(\mathbf{r}=(x,y,z)\)の関数とする。 \begin{eqnarray} \int f^*(\mathbf{r})\;\frac{\hbar}{i}\frac{\partial\, g(\mathbf{r})}{\partial\, x}\; dx\;dy\;dz&=& \int f^*(\mathbf{r})\frac{\hbar}{i}[g(\mathbf{r})]^{x=+\infty}_{x=-\infty} \;dy\;dz-\int \frac{\partial\, f^*(\mathbf{r})}{\partial\, x}\frac{\hbar}{i}\;g(\mathbf{r})\;dx\;dy\;dz\notag\\ &=&\int\left(\frac{\hbar}{i}\frac{\partial\, f(\mathbf{r})}{\partial\, x}\right)^* g(\mathbf{r}) \;dx\;dy\;dz\notag\\ &=&\left(\int g^*(\mathbf{r})\frac{\hbar}{i}\frac{\partial\, f(\mathbf{r})}{\partial\, x}\;dx\;dy\;dz\right)^*\notag \end{eqnarray} つまり \[ \int f^*(\mathbf{r}) \cdot \hat{p}_x \cdot g(\mathbf{r})\;dx\;dy\;dz=\left(\int g^*(\mathbf{r}) \cdot \hat{p}_x\cdot f(\mathbf{r})\;dx\;dy\;dz\right)^* \] である。ゆえに運動量演算子はエルミートである。
ところで運動量測定状態の位置表示は \[ \exp\left(i\frac{\mathbf{p}\cdot{\mathbf{r}}}{\hbar}\right) \] であり、遠方で確率振幅が消えるということを満たしていない。となると今の前提条件が崩れてしまう。これはある範囲内ではこの式でよいが、ある範囲外では突然0になるというようにすれば良いと思う。となるとその境界上でこの関数は運動量演算子の固有関数でなくてってしまうのだが、それはおそらく問題は起きないと思う。このことについてはあまり深く考えていないのだが、機会があったらしっかりと考えてみたい。今回はこの程度で終わっておくことにする。
位置演算子
\[ \int f^*(\mathbf{r})\cdot x \cdot g(\mathbf{r}) \;dx\;dy\;dz =\left( \int g^*(\mathbf{r})\cdot x\cdot f(\mathbf{r})\;dx\;dy\;dz\right)^* \] なのでエルミート演算子である。同様に位置のみの関数、例えばポテンシャルはエルミートである。
エネルギー
エネルギー演算子は \[ \sum_i\frac{p_i^2}{2m}+V(\mathbf{r}) \] である。エルミート行列の自乗はエルミートである。またエルミート行列にエルミート行列を足したものもエルミート行列である。よってエネルギー演算子はエルミートである。また磁場がある場合エネルギー演算子は \[ \sum_{i=1}^3 \frac{1}{2m}\left(p_i-\frac{q}{c}A_i(\mathbf{r})\right)^2+V(\mathbf{r}) \] であるが。同じ理由でエルミートである。
角運動量
角運動量の例えば\(z\)成分は \[ xp_y-yp_x \] である。交換するエルミート行列\(x\)と\(p_y\)をかけ合わせてもエルミート行列である。だから角運動量はエルミートである。またエルミートの自乗もエルミートなので角運動量の自乗もエルミートである。