2021年3月23日

量子力学の原理を考える

序文

 この論文は私が量子力学を理解しようとして考えたこと、主に基礎的問題や原理的問題について記述している。 全体を2部に分け、第I部では量子力学の体系について書き、第II部で測定に関わることを書いた。第I部はそれなりに体系的にかかれているが、第II部はそうではない。 量子力学の教科書を読むと、「エルミート演算子」やら「回転演算子」やら「物理量は演算子である」など、これが一体物理法則とどう関係があるのかわからない話で溢れている。わたしの目標はそういうものを廃して、自然法則としての量子力学を述べることである。つまりこういう状況ではこういうことが起きるという現象の因果関係を述べることである。私は最初、確率振幅で状態は決まるというわけのわからない考えに悩み、状態とは何かと考えた。それは確率分布にほかならないと気づいた。確率分布を求めることが量子力学の計算なのだと。 確率振幅や変換行列は確率分布を求めるための計算のための便宜なのである。

 内容について簡単に述べよう。第I部は量子力学の体系について私なりに解釈して記述した。第1章では量子力学の最も基本的な原理について述べた。確率分布が物理的に意味のあるものであり、確率振幅、波動関数は確率分布の計算のための便宜であるという考えで書いた。 第2章で確率振幅や変換行列の性質について述べた。同じ確率分布を表すにもいろいろな確率振幅と変換行列が存在する。時間発展方程式と確率振幅と変換行列の複素共役の関係についても言及した。第3章では、スピン1/2での変換行列を確率分布から求めた。これは第1章第2章の応用になっている。 第4章では、演算子を使って変換行列を求めた。要はこれが量子力学の肝であり、普通の教科書ではこれがメインで出てくるのだが、これはあくまで変換行列と確率振幅を求めるための1つの手段に過ぎないという考えで記述した。この方法で求めた変換行列を使うと、物理量の期待値の時間発展が古典力学の正準方程式と形式的に一致し、波束が十分小さいときは、実際的な意味で古典力学と一致する。このことがこの方法の正しさの根拠の1つになっている。その数学的な証明は次の第5章に残した。第5章では物理量の平均値の時間発展方程式が古典論と形式的に一致していることを数学的に証明した。 まず、通常のハミルトニアンで、位置と運動量の平均値の運動方程式が形式的に正準方程式に一致することを示した。そして、磁場の存在する場合にも平均値の運動方程式が正準方程式に一致することを証明した。これは普通の教科書には出てないので価値があると思う。、そして最後に、一般の物理量でも古典論と一致することを示している。これも普通の教科書には出てないので価値があると思う。ここでの古典論と一致というのは量子論の演算子の項が古典論と同じ項で構成されているという意味である。 第5章はほとんど数学の話であり、物理的な話は出てこないので気が向いたら読めばいいと思う。 第1章第4章が第I部の量子力学の体系としての中心部分であり、 第2章はやや横道にそれた部分であり、第3章は応用的な話である。第5章は数学である。

 第II部は測定に関係したことついて記述した。 第6章では、測定とは位置、長さを測ることであるという私見を述べた。又、量子力学では如何にして位置の測定が行われるのかを紹介した。第7章では、一つの粒子の測定について考えた。それは値ごとに空間上分離して位置を測る方法しかないと思うのだが、その方法を運動量とスピンについて考察した。測定値とは確率分布そのものだと考えるのが私はいいと思うのだが、波束の収縮によって値が選択されたとも考えられる。そこらへんは混乱しているのではないかと思う。 第8章では観測問題について考察した。これは結局わからないことである。初期状態をどうやって知るかとともに量子力学の問題点である。第9章では、不確定性原理について述べた。 不確定性原理というものは量子力学の法則から導き出せるものであり、そう重要な話では無いと思うのだが、多くの教科書に記述があるので、それらを批判するということを主な目的として、この論文でも記述することにした。第10章では統計力学のカノニカル分布での量子状態について、エネルギー固有状態にあるのでなく、その重ね合わせの状態にあるのではという私見を述べた。 又、付録Aでは――――この論文では必ずしも必要はないのだが――――スピン演算子というものについて説明した。このスピン演算子を使って、付録Bでは、磁場中でのスピンに関するハミルトニアンについて述べた。これは通常の教科書では天下り的に与えられているのだが、この論文の論旨に従った導出を試みた。このハミルトニアンを使って、付録Cでは、シュテルン・ゲルラッハの実験で波束が2つに分離することを量子力学の時間発展方程式を使って説明した。付録Dでは位置、運動量、角運動量、エネルギー演算子がエルミート演算子になることを示した。多くの教科書で記述があるので不要かもしれない。付録Eでは第4章で述べた演算子の固有値が実数になること、また固有ベクトルが直交することの数学的証明を述べた。これも多くの教科書にでているので不要かもしれない。 論文の最後に「おわりに」というタイトルで量子力学の疑問点などについてざっくばらんに私の考えを述べた。

 量子力学の主張には無理があるのである。だからそれを明快に解説するのは――――もちろん私の能力不足もあろうが――――土台無理なのである。ただ書いてあることはほとんどが私が自分で考えたことであり、 それなりの価値はあると思う。主張が明確なら、それを批判することも容易であるが、量子力学の場合、何を主張しているのか自体がよくわからないので、その批判も容易でないのである。

 私にとって量子力学の勉強は苦痛でしかなかった。それでも、この論文を書いたことにより、少しわかるようになった。そして、少し楽しくなった。 この論文に欠けているのは量子力学の体系の正しさを根拠付ける実験についてほとんど記述していないことであろう。それは単に私に説明できるほどの知識がないからである。それはあまりに膨大なことで手に余ることである。 量子電磁気学や素粒子論についての記述もない。話は非相対論的なものに限定している。私にその知識がないからである。

2021年3月23日

PDFファイルA4、130ページ、4.8MB

目次

序文

記号・用語

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

第7章

第8章

第9章

第10章

付録A

付録B

付録C

付録D

付録E

おわりに